神戸地方裁判所 平成11年(ワ)2362号 判決 2000年10月10日
原告
坂田ケイ子
被告
金沢圭一
ほか一名
主文
一 被告らは、原告に対し、連帯して金二七万〇〇九六円及びこれに対する平成一〇年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた判決
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、連帯して金六五八万三三二四円及びこれに対する平成一〇年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 発生日時 平成一〇年一〇月九日午後〇時三〇分ころ
(二) 発生場所 神戸市長田区菅原通七丁目四一番地先交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 加害車両 普通乗用自動車(神戸三三ね三一五〇)
(四) 右運転者 被告金芝穂子(以下「被告芝穂子」という。)
(五) 被害車両 原動機付自転車(神戸長な八八六五)
(六) 右運転者 原告
(七) 事故態様 被告芝穂子が運転する加害車両(以下「被告車」という。)が左右道路の安全を確認せずに本件交差点に進入したため、原告運転の原動機付自転車(以下「原告車」という。)が被告車に衝突し、転倒した。
2 責任原因
(一) 被告金沢圭一(以下「被告圭一」という。)は、被告車の保有者であり運行供用者であるから、本件事故による原告の人身損害について自動車損害賠償保障法三条により賠償責任がある。
(二) 被告金芝穂子は、本件交差点の手前で一時停止した後、同交差点に進入して右折西進するに際し、西方道路から東進して来る車両の有無を十分確認して進行する義務があるのにこれを怠り、東行き車線に進入した。
よって民法七〇九条により損害賠償義務がある。
3 原告の傷害及び治療状況
原告は、本件事故により、頭部・胸部・左肩打撲、左下肢打僕・擦過創、めまい、左肘打撲・挫創等の傷害を負い、以下のとおり入通院した。
(一) 平成一〇年一〇月九日から同月一七日まで家富整形外科に通院(通院実日数二日)
(二) 平成一〇年一〇月九日から同年一一月五日まで神戸赤十字病院に入院(入院日数二八日)
(三) 平成一〇年一一月五日から平成一一年四月一八日まで公文病院に入院(入院日数一六五日)
(四) 平成一一年四月一九日から同年五月七日まで同病院に通院(通院実日数六日)
4 損害
(一) 治療費 金一一八万六八〇四円
内訳 家富整形外科 金七万七五九七円
神戸赤十字病院 金二六万九七九七円
公文病院 金八三万九四一〇円
(二) 入院雑費 金二八万九五〇〇円
日額一五〇〇円として一九二日分であるが、入院雑費としては二八万九五〇〇円を請求する。
(三) 付添看護費 金九七万五〇〇〇円
日額六五〇〇円として一五〇日分
(四) 入通院慰謝料 金三〇〇万円
前記入通院経過に照らせば、前記金額を下回らない。
(五) 交通費 金一万八七二〇円
家富整形外科、公文病院に通院するに当たってタクシーを利用した。
(六) 休業損害 金一七一万三三〇〇円
原告は、主婦として稼働しながら占い業もしていたので、女子六〇歳ないし六四歳の賃金センサスによる平均賃金(月額二〇万三八〇〇円の一二倍と年間賞与等の額四九万一五〇〇円との合計二九三万七一〇〇円)に基づき、休業期間七か月として計算する。
(七) 損益相殺 金一二〇万円
原告は自賠責保険から一二〇万円の支払を受けた。
(八) 弁護士費用 金六〇万円
(九) 合計 金六五八万三三二四円
5 よって、原告は、被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、金六五八万三三二四円及びこれに対する本件事故日である平成一〇年一〇月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実のうち、被告芝穂子が安全確認をしなかったことは否認し、その余は認める。
2 同2の(一)の事実のうち、被告圭一が被告車の所有者であり運行供用者であることは認め、その余は争う。
3 同2の(二)の事実のうち、被告芝穂子が安全確認を怠った過失があることは否認する。
4 同3、4の事実は不知。
5 同5の主張は争う。
三 抗弁
原告車は、前方の見通しがよい真っ直ぐな道路を直進し、本件交差点に入ろうとしていたものであるが、被告車は本件交差点に進入する直前に一時停止した後、徐行しながら進入し、停止しているにもかかわらず、原告は被告車のわずか二、三メートル手前に至るまで気付かずに被告車にぶつかってきたものである。したがって、被告芝穂子には何ら過失はなく、仮に過失があるとしても、原告には前方不注視の過失があり、過失相殺がされるべきである。
四 抗弁に対する認否
抗弁事実は否認する。
理由
一 被告芝穂子に過失があったことを除き、本件事故が発生したこと(請求原因1)及び被告圭一が被告車の保有者であり運行供用者であること(同2の(一))については当事者間に争いがない。
二 責任原因
1 甲第四号証、第七号証ないし第一一号証、第三〇号証、乙第四号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 本件交差点は、東西に走るほぼ直線の片側一車線の道路(以下「東西道路」という。)とその北側にある幅員三メートルの道路(以下「北側の道路」という。)とがTの字に交差する交差点であり、東西道路には停車車両があり、いずれの道路からも相手方道路に対する見通しは悪かった。
(二) 原告車は、東西道路を時速約三〇キロメートルの速さで東進しており、被告車は、北側の道路から本件交差点を右折して東西道路を西進しようとしていた。
(三) 被告芝穂子は、本件交差点の手前で一時停止し、その後は、ブレーキを踏みつつ惰性で本件交差点に進入し、約六・五メートル進んでセンターラインの手前一・二五メートルの地点で再度停止して、左右を確認した。
(四) 被告車が停止した位置より一メートル手前の地点で右側一七・四メートル(衝突地点から西方一六・四メートル)が、二メートル手前の地点で一六・六メートル(同地点から西方一五・二メートル)が、更に三メートル手前でも一五・八メートル(同地点から一三・一メートル)が、それぞれ見通すことができた。
(五) 被告芝穂子は、本件交差点は東西の見通しが悪いことを熟知していた。
(六) 一方、原告は、被告車を本件交差点の二、三メートル手前で発見し、急ブレーキをかけたが間に合わず、本件交差点内に停止していた被告車に衝突し、原告と原告車は五、六メートル進行した地点で転倒して停止した。
2 右事実によれば、被告芝穂子は、東西道路に出るに当たって一時停止した上徐行しながら進行するなど一応の注意はしていたが、東西の見通しが悪く、その点につき熟知していた上、停止した位置よりも一ないし三メートル手前の地点で十数メートル先まで右側を見通すことができたのであるから、なお、停止、微発進を繰り返すなどの注意が必要であり、これを怠って停止位置まで進入した被告芝穂子には過失があるといわなければならない。
他方、原告は、本件交差点の途中までゆっくり進入していた被告車に直前まで気が付かなかったのであるから、前方不注視の過失がある。
3 以上のことからすれば、本件事故については、被告芝穂子に七割の、原告に三割の過失があったと認めるのが相当である。
三 原告の受傷等
1 甲第三号証、第一二号証ないし第二二号証、第二七号証ないし第二九号証、乙第一号証、第二号証の一ないし三及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告は、本件事故により、頭部・腰部・胸部・左肩打撲、左下肢打撲・擦過創傷害を受け、平成一〇年一〇月九日に家富整形外科に通院したあと、同日から同年一一月五日まで神戸赤十字病院に入院(ただし、その間の同年一〇月一七日に家富整形外科に通院)し、更に同五日から平成一一年四月一八日まで公文病院に入院した後、同月一九日から同年五月七日まで同病院に通院した。
(二) 原告は、平成一〇年一〇月一七日に家富整形外科において、本件事故による傷害は約二週間の加療を要する見込みである旨の診断を受けており、また、神戸赤十字病院においてはレントゲン検査、頭部CT検査とも明らかな異常は認められず(甲第一四号証)、平成一〇年一一月六日の段階で傷害はほぼ完治している(乙第二号証の三)。
原告は、神戸赤十字病院を退院した後、自らの希望もあってリハビリのために公文病院に入院したものであるが、同病院においても、めまいはひどかったが、CT、レントゲン共に異常はなく、めまいと本件事故との因果関係は不明であるとされている。公文病院においては、めまいのため入院期間が長期化したが、リハビリとともに私病についての治療もされていた。
(三) 原告は、平成一〇年八月二七日にオートバイの転倒事故を起こし、左膝滲出性関節炎、関節内血腫の傷害を負い、その治療のために平成一〇年八月三一日から同年一〇月八日まで家富整形外科に通院していた。その治療期間中である同月七日に本態性高血圧症が発見されたが、投薬と注射により翌八日には正常値に戻っていた。
原告は、本件事故当日も家富整形外科に通院するところであったが、左膝関節内血腫は治癒しており、左膝滲出性関節炎は経過が良好であった。本件事故により骨折が疑われたほか血圧が異常に高くなったため、神戸赤十字病院へ搬送された。
2 以上の事実によれば、平成一〇年一〇月九日及び同月一七日の家富整形外科への通院並びに同年一〇月九日から同年一一月五日までの神戸赤十字病院への入院は本件事故と因果関係があると認められる。原告の本件交通事故による傷害は、神戸赤十字病院を退院したころにはほぼ完治していたのであり、公文病院へのリハビリのための入院が全く必要がないとはいえないものの、その必要性や同病院における治療内容について何ら主張立証がなく、しかも本件事故以前から本態性高血圧症は発症している上、公文病院においては私病についても治療がされているほか、めまいは高血圧によっても生じることがあり、本件事故との因果関係が不明であることに照らせば、公文病院における入通院治療のすべてを本件事故と因果関係があるものと認めることはできない。
四 損害
1 損害額
(一) 治療費 金五〇万二九五二円
前記認定事実に照らせば、本件事故と因果関係のある治療としては、家富整形外科及び神戸赤十字病院への入通院期間中のすべてと公文病院における入院期間中の二割及び通院期間中のすべてを認めるのが相当である。したがって、家富整形外科分七万七五九七円、神戸赤十字病院分二六万九七九七円、公文病院入院分一五万三二一八円及び同病院通院分二三四〇円の合計五〇万二九五二円が本件事故と因果関係があると認められる。
(二) 入院雑費 金七万九三〇〇円
前記認定事実に照らせば、神戸赤十字病院の入院日数二八日分及び公文病院の入院日数一六五日分の二割を本件事故と因果関係があるものと認め、これに日額一三〇〇円を乗じると七万九三〇〇円となる。
(三) 付添看護費
本件における原告の傷害は、付添が必要なほど重篤なものとはいえず、めまいと本件事故との因果関係も認められないので、付添費用を本件事故と因果関係のある損害と認めることはできない。
(四) 入通院慰謝料 金七五万円
前記の入通院期間に照らせば、本件事故による入通院慰藉料は七五万円が相当であると認められる。
(五) 交通費 金五〇四〇円
家富整形外科への通院は、事故直後でもあり、タクシーの利用が相当と認められる。
(六) 休業損害 金七三万四二七四円
前述のとおり、本件事故と因果関係のある治療期間は、平成一〇年一一月五日までの二八日間と公文病院の入院期間の二割の三三日間及び通院期間の七日間であり(甲第二三号証)、その後の自宅療養期間を含めても、本件交通事故により休業せざるを得なかった期間は三か月と認めるのが相当である。女子六〇歳から六四歳の賃金センサスによる平均賃金は二九三万七一〇〇円であるから、その三か月分は七三万四二七四円となる。
2 過失相殺
以上を合計すると、原告の損害は金二〇七万一五六六円となるところ、前記のように、原告には本件事故に関し、三割の過失が認められる。そこで、この割合に従って三割の減額をすると、原告が被告らに対し本件事故に関して請求し得る損害額は、一四五万〇〇九六円となる。
3 損益相殺
原告が自賠責保険から一二〇万円の支払を受けたことは原告の自認するところである。したがって、前記損害額から一二〇万円を損益相殺として減額すると、本件事故による損害額は二五万〇〇九六円である。
五 弁護士費用
原告が本訴の提起、追行を原告代理人に依頼したことは記録上明らかではあるが、右認容額及び本件訴訟の経緯に鑑みれば、本件事故と因果関係がある損害として被告に請求し得る弁護士費用は二万円と認めるのが相当である。
六 結論
よって、原告の本訴請求は金二七万〇〇九六円及びこれに対する本件事故の日である平成一〇年一〇月九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 島田清次郎)